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和歌山地方裁判所 昭和42年(ワ)125号 判決 1968年2月05日

原告

株式会社中村タクシー

ほか一名

被告

井本勉

主文

被告は、原告株式会社中村タクシーに対し金一二万一、七九五円、原告清水喜代志に対し金五万一、二二六円及びこれらに対する昭和四一年六月三〇日より各完済するまで年五分の割合による金員を支払え。

原告等のその余の各請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は第一項に限り仮りに執行することができる。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告等

被告は原告株式会社中村タクシー(以下原告会社と呼ぶ)に対し金一三万七、四一四円、原告清水喜代志(以下原告清水と呼ぶ)に対し金五万三、六二八円及びこれらに対する昭和四一年六月三〇日より各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行の宣言を求める。

二、被告

原告等の各請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

第二、請求の原因

一、本件事故の発生

1  昭和四一年六月二九日午後七時三〇分頃、訴外谷口登喜男は大型貨物自動車「和一の二八二三」(以下被告車と呼ぶ)を運転し和歌山市有本一四番地先国道二四号線上を西進中前方に於いて停車していた訴外山田耕造運転の普通貨物自動車「和四な一四六」(以下これを訴外車と呼ぶ)の後部に追突した。その衝撃によつて右訴外車は右国道の斜右側に暴走し、折から同所を東進中の原告清水運転の営業用普通乗用自動車「和五あ四三八〇」(以下原告車と呼ぶ)に衝突した。右衝突によつて原告車は破損し、原告清水は加療二週間を要する右側胸部及び右前腕打撲の傷害を受けた。

二、被告の責任

(1)  前記谷口登喜男は自動車の運転者として酒気を帯びて運転してはならないことは勿論前方を注視して進行すべき注意義務があるにもかかわらず、酒気を帯び注意力の散漫な状態でしかも前方注視の義務を怠り約五〇粁の時速で漫然と進行したため約六米に接近して訴外車を発見し、あわてて急制動をかけたが及ばず訴外車に衝突し、これを暴走させて本件事故を惹起させた。

(2)  ところで、被告は被告車を所有し砂利の採取、運搬、販売を業とする者であり、右谷口登喜男は被告に雇われている運転手で被告車を運転し被告の右砂利運搬の業務に従事中に本件事故を発生させた。

(3)  してみると、被告は右谷口登喜男の使用者として又被告車の保有者として運行使用中の本件事故によつて生じた原告等の損害を賠償する責任がある。

三、原告等の損害

(一)  原告会社について

(1) 自動車破損による修理代金 金八万二、八四〇円

原告会社はその所有の原告車が本件事故により破損したので、その修理代金として金八万二、八四〇円を支払つた。

(2) 得べかりし利益の喪失 金五万四、五七四円

原告会社はタクシー営業を行う会社であるが、原告車を修理するために昭和四一年六月二九日より同年七月五日までの七日間該自動車を使用して営業することができなかつたので、原告会社はその間に別表(一)に示すように、金五万四、五七四円の得べかり利益を喪失した。

(二)  原告清水について

(1) 得べかりし利益 金三万三、六二八円

原告清水は事故当時原告会社の運転手として一日平均金二、四〇二円の賃金を得ていたが、本件事故によつて前記傷害を受け昭和四一年六月二九日より同年七月一二日までの間休業せざるを得なかつた。そうすると、原告清水は右一四日間に一日金二、四〇二円の割合による金三万三、六二八円の得べかりし利益を喪失した。

(2) 慰藉料 金二万円

原告清水は本件事故により前記傷害を受け、右のとおり一四日間も休業し安静して加療せざるを得なかつたが、被告は何等誠意ある態度を示さなかつた。原告清水が本件事故のために蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料は金二万円に相当する。

四、よつて、被告に対し、原告会社は金一三万七、四一四円、原告清水は金五万三、六二八円及びこれらに対する昭和四一年六月三〇日より各完済するまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めて本訴請求に及んだ。

第三、被告の答弁

(一)  請求の原因第一項記載の事実は認める。

(二)  同第二項記載の事実のうち、(1)は争う。(2)は認める。

(三)  同第三項記載の事実のうち、原告会社が原告車の所有者でタクシー営業を行つていること。原告清水は原告会社の雇われの運転手であることは認める。その余の事実は不知。原告主張の損害額は過大なので争う。

第四、証拠〔略〕

理由

一、本件事故の発生にっいて

原告等主張の日時場所において、国道二四号線を西進中の谷口運転の被告車が前方に停車中の訴外車に追突し、訴外車がその衝撃によつて暴走し対向して東進してくる原告清水運転の原告車に衝突したことは当事者間に争がない。この事実のみによつても、右被告車の訴外車に対する追突は被告車の運転手谷口に前方不注視等の過失があつたことを推認せしめるに足るが〔証拠略〕によると、谷口登喜男は事故発生の前に岩出町の食堂で夕食をする際空き腹に清酒二合位を飲酒し多少酔心地で注意力が平素より鈍つた状態で時速約五〇粁の速さで運転していたために前記山田耕造運転の訴外者が国道を右に横断するために右側の指示器を出して国道中央線寄りに一時停車し東進してくる自動車の通過を待つているのを前方約六米の至近距離に至つてはじめて気付き、あわてて叙制動措置をとつたが及ばず追突し、右衝撃によつて横断の心理で斜右にハンドルをとつていた訴外車を国道上のその方向へ押し進め折から右国道を時速約四〇粁の速さで東進してきた原告清水運転の原告車に衝突せしめたのであることが認められる。

而して右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によると、谷口登喜雄に原告等主張のような過失のあることは明白である。

二、被告の責任

被告は被告車の所有者であつて右谷口登喜男を運転手として雇いこれを運転し被告の砂利運搬の業務に従事せしめている中に本件事故が発生したことは当事者間に争がないので、被告は本件事故によつて生じた原告等の損害を、その損害の種別に応じ、右谷口登喜男の使用者として民法第七一五条により或は自動車損害賠償保障法第三条により賠償する責任がある。

三、原告等の損害

(一)  原告会社について

(1)  自動車修理費用 金八万二、八四〇円

原告車が本件事故によつて破損されたことについては当事者間に争がなく、〔証拠略〕によると、原告会社は共立鈑金工作所に破損した原告車の修理を依頼しその修理費用として金八万二、八四〇円を支払つたことが認められる。而して右認定に反する証拠はない。

(2)  得べかりし利益 金三万八、九五五円

〔証拠略〕によると、原告会社は本件事故当時中型タクシー三台、小型タクシー一二台を所有しタクシー業を営んでいるところ、本件事故のために原告清水運転のタクシー一台が前述のとおり破損しそれを修理するために事故発生時より昭和四一年七月五日までの商談タクシーによる営業はできなかつたこと。ところが右破損したタクシー一台を除いた他の一四台のタクシーにつき右期間内における一台当りの平均売上額は別表(一)中の該当欄記載のとおりであるが、原告清水は原告会社内では成績優秀な運転手であつたので同人の売上額は右平均売上額を上廻るものであつたこと。右売上額の利益を得るためには普通ガソリン、オイル等の燃料費及び車の消耗費として売上額の約二〇パーセントに相当する経費が必要とされており、更に原告会社は事故当時原告清水に一日金二、四〇二円の賃金を支払つていたので、一日金二、四〇二円の割合による運転手の賃金が人件費として必要になることが認められる。而してこれら認定に反する証拠はない。

そうすると、原告会社が右タクシー修理期間内において原告清水の運転により該タクシー一台で得る純収益は右売上額よりこれら諸経費人件費を控除した別表(二)の金額を下らないものであると言える。(但し昭和四一年六月二九日の右得べかりし利益の算出については、本件事故は午後七時三〇分頃に発生しており、事故のために営業できなかつた時間は僅か四時間余りなので、これは一日分の三分の一程度とみて計算すべきであり、又原告会社は原告清水に同日分の賃金は支払つているとみられるので、原告会社の事故当日の得べかりし利益はその売上額より燃料費及び車の消耗費のみを控除した残額により決すべきである。)

以上のとおりであつて、原告会社はその所有する原告車が本件事故により破損され、それを修理するために事故発生時より昭和四一年七月五日までの間該自動車により営業することができなかつたので、金三万八、九五五円の得べかりし利益を喪失したことになる。

(二)  原告清水について

(1)  得べかりし利益 金三万一、二二六円

原告清水が本件事故のために加療二週間を要する右側胸部打撲及び右前腕打撲の傷害を受けたことについては当事者間に争がなく、〔証拠略〕によると、原告清水は事故当時原告会社より一日平均金二、四〇二円の賃金を得ていたが、本件事故により前記傷害を受けたために事故発生時より昭和四一年七月一二日までの間休業したこと。原告会社の労働条件は原告清水の場合は午前九時より翌日の午前九時まで二四時間通して働き、その後一日休養することになつており、原告清水は事故当日の午前九時より事故発生の午後七時三〇分までは働いており同日の労働時間はあと僅かを残すのであるが、原告会社は六月二九日については一日分の賃金を支給していること。原告清水は六月三〇日より七月一二日までの休業した時の給料の支給を受けていないことが認められる。そうすると、原告清水は本件事故のために一日金二、四〇二円の割合により六月三〇日より七月一二日までの間に金三万一、二二六円の得べかりし利益を喪失したことになる。

(2)  慰藉料 金二万円

〔証拠略〕によると、原告清水は原告会社では成績優秀な運転手として仕事に精励していたところ、突然不慮の本件事故に遭遇して前記傷害を受け二週間休業して治療を受けざるを得なかつたこと。右休業後再びタクシーの運転手としての仕事に従事しているが、当分体が痛くて事故以前程には働けなかつたこと。被告は本件事故の見舞にも来ず又、原告等より申立てた調停にも出席せず損害賠償につき全く、誠意のない態度を示してきたことが認められる。これらの事実に本件に現われた一切の事情をしんしやくすると、本件事故によつて原告の蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料は金二万円に相当する。

四、結論

叙上の次第であつて、原告会社の蒙つた損害は(1)車の修理費金八万二、八四〇円、(2)得べかりし利益金三万八、九五五円合計金一二万一、七九五円、原告清水の蒙つた損害は(1)得べかりし利益金三万一、二二六円、(2)慰藉料金二万円合計金五万一、二二六円であるから原告等の本訴請求は被告に対し原告会社は金一二万一、七九五円、原告清水は金五万一、二二六円及びこれらに対する本件事故後の昭和四一年六月三〇日より各完済するまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容し、原告等のその余の各請求をいずれも棄却し、民事訴訟法第八九条、第九二条、第一九六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 林義雄 最首良夫 小林一好)

別表(一)

<省略>

別表(二)

<省略>

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